2017年 10月 07日
鱒幸竿誕生秘話。そしてなぜ竹竿か。 |
って実のところ秘密でもなんでもありませんが・・・
禁漁期に入ったのでこのタイミングで、と具合の悪かった所の手術入院をしており、病室で暇に任せてつらつらとこんな文章を打ってる次第です。
この遊びをやっている者なら誰もが(私もそうでした)いつかは優雅に竹竿で釣りがしてみたい、と思わずにはいられません。
サラリーマンだった私も限られた小遣いでなんとか竹竿を手に入れようと、オークションの中古品やら格安品を買ったり、ブランクからの半自作をしてみたりという事をしました。しかし納得の1本にはなかなか出会えませんでした。
そんな中で粗悪品を掴まされてしまったり、期待していたアクションとかけ離れていたり、と結局ずいぶん遠回りして、高い授業料を払ってしまいました。安物買いの銭失いとはよく言ったものですね。
しかもそれら2ケタの数のロッドのうち、2/3以上が折れました。
この試行錯誤の時期に感じたのは、外国製のロッドは対象魚の平均サイズや釣り場環境の違いから、例え#3指定であっても、日本の渓流でイワナやヤマメを釣るには調子が強すぎて釣り味が面白くないということです。これはカーボンロッドでも同じですね。またある特定ヵ所で折れやすいということもわかりました。
日本のビルダーのロッドも欧米のロッドのテーパーをお手本にしているケースが多いと思われますが、おそらくアマチュアの場合は大半がアメリカ製有名ロッド(テーパーの数値データーがネット上に公開されている)のテーパーで作成しているでしょう。ですから多くのロッドのアクションは僕にとっていまひとつ納得のいかないものだったわけです。
最終的に僕が「いいな」と思えたのは中村羽舟氏の竿でした。軽くしなやかで、魚を掛けるとグリップの中まで深く曲がります。そしてキャストフィールも滑らかで何と言ったらいいか・・・「官能的」です。1本15万と高いので僕は2本しか持っていませんが、たくさん注文しているコアなファンもいらっしゃる様です。
お話好きな中村さんの工房にたびたびおじゃまして、注文品の相談や羽舟竿の制作工程を楽しそうに熱心に事細かにお話しされるのを見聞きするうちに、元々モノ作りが好きだった僕は無性に、自分でも竹竿をイチから作ってみたくなりました。
そんなきっかけで作り始めた鱒幸竿なので、制作方法は教わった中村さんをお手本にしています。
しかし、ロッドアクションのカギとなるロッドテーパーは、鱒幸竿と羽舟竿とは全く別物です。その部分は釣りキチの自分が求める『日本の渓流のための自分にとって理想のフライロッド』を追求しています。
素材は、日本の渓魚には日本の真竹が最もマッチしていると思います。これは羽舟さんも同意見です。羽舟竿の独特のフィーリングは素材によるところも大きいと思います。
元々自分が一番いいと思ったのが羽舟竿でしたから、僕が作る竿のフィーリングも羽舟竿に似ているかもしれません。でも僕は羽舟竿のコピーを作る気はありません。
外見、コスメは自分が好きな『和』のデザインを意識しています(せっかく竹という日本的・東洋的な自然素材で作っていますし)。シンプルですっきりしていて、余計な自己主張はしない、周りの自然や渓魚と調和する、撮影時にヤマメやイワナを引き立てるようなデザインを考えました。 文字入れが漢字縦書きなのは、以前に喜楽のロッドでそういうのを見て以来「イイネ!」と思っていたからです。
素材の真竹はより良い産地を開拓し、膨大な数の竹の中から「これは!」というものを厳選して採取しています。
同じ数値で作っても使う竹によってはぜんぜんアクションの違った竿になってしまうのです。
より良い竿を作るには原料竹の質が重要です。
ビルダーはテーパー設計と原料竹の使い分け、火入れの具合等を組み合わせて、1本1本、お客の要望に合った様々な性格の竿を作ることができます。 そこがマスプロ製品であるカーボンロッドとの大きな違いです。 竹竿ならオーダーメイドで、自分だけの、世界でただ一本のスペシャルロッドを手に入れることができるのです。そんな点も竹竿の大きな魅力なのです。
ですから、使い手の立場から考えれば、ビルダーと相談しながらオリジナル仕様の竿を作った方が絶対満足度が高いと思います。まあ、作る方にとっては既製品を並べてその中から選んでもらう方が楽ではありますが・・・
僕は、頼んでくれた人が満足してくれて、喜んでくれることこそ作り手の喜びだと思うので、できるかぎりお客さんの要望に応えたいと思っています。
「竹竿としてはずいぶん低価格ですね」との声を時々いただきます。
(現在5万円、来年やや値上げ)
確かに正当なコスト計算や妥当な手間賃を考えたら、本来は10万以上になるでしょう。しかしそんな高価な品では、一部のお金持ちの道楽にしかなりませんし、そもそも実績のない駆け出し職人の竿にそんな大枚叩いてくれる酔狂な人がいるとも思えません(笑)
緻密な計算の結果(ウソウソ)、この値段でも月に1~2本の注文を貰って、あとは時々バイトすれば残りの人生生きていけるとの結論に至ったので、自由の無い、ブラック的企業勤めとオサラバして自称竹竿職人に転職したわけです。
価格設定については、カーボンロッドの中級クラスと同程度とも考えて決めてあります。
気軽にメインロッドとして使い倒して欲しいとの願いからです。
「バンブーロッドは1本持っているが、もったいなくて使わない」という話をよく聞きます。作者としては残念な事だろうと思います。
竿は川で使って魚を釣ってこそ真価を見い出せます。竹竿の魅力、味わいを感じている者として、より多くの仲間に竹竿の良さを知ってもらいたい。竹竿を使ってもらいたい。私はそんな気持ちで竿を作っています。
「鱒幸竿」は余計な装飾や見てくれのために手間を掛けた工芸品ではなく、道具としての機能と美しさを目指しています。それは同時にコストを抑え低価格な実用品となるでしょう。
フライロッドは1本あれば十分というものではありません。誰しも様々なシチュエーションに合わせて複数のスペックの竿を作りたくなるものです。価格が手頃な竿ならそれも可能になります。
「もったいない」の理由として高価であるほかにもう一つ、竹竿は折れやすいと思われているのではないかと思います。
自分で作った竿を実際にとことん使い込んでみたから(長い物は6年)自信を持って言えますが、ちゃんと作った竹竿は丈夫です。普通に使っていて折れる心配はありません。メインの竿として遠慮なく使ってもらいたいです。ただし「正しい使い方をすれば」です。私なりの「使用上の注意」をHP、infomationの「バンブーロッドの取り扱い説明」で紹介していますので参考にしてください。
竹竿を使う人が増えること、それは同時にこれまでとは違った価値観を持った釣り人が増える事を意味します。
従来の釣り人は、より多く、より大きくという漁獲第一主義が主流でした。しかしそんな遊び方ではいずれ釣り場の荒廃によって破綻します。
これからは1尾の魚を釣って放すまでの過程を、いかにスマートに、恰好良く、お洒落に、より味わい深く、行うか。そして魚を釣る行為のみでなくその周辺の物事まで含めて楽しむ。そこに重きを置くという価値観、、、快楽主義と言ったらいいのか、悦楽主義か?、、、ボキャブラリーが足りず、ぴったりした言葉が思いつきませんが、、、そういう楽しみ方こそ、この道楽にはふさわしいものだと思うのです。
「釣れればいい」ならわざわざフライなんて面倒なやり方をしないで餌で釣れば手っ取り早いのに『わざわざ』こんな面倒なやり方で魚を釣ろうとしている我々フライマンは、新しい価値観を持った釣り人です。 ですから『わざわざ』竹竿なんかを使う意味、もきっと理解していただけると思います。
いまお持ちの竹竿は、『とっておき』にしないで、ぜひ第一線で活躍させてあげてください。
そして、まだ竹竿に手を出していない方は・・・鱒幸竿をどうぞ(笑)
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by troutriver
| 2017-10-07 20:30
| making of 鱒幸竿